「上海なう」の時間です。
前回に引き続き、上海でのアートレジデンスに参加した長沢郁美さんへのインタビューをお送りします。
今回は、現地での生活で何を得たのかについてフォーカスしてみました。
レジデンスの魅力は、制作→展示までを短期間に集中してできることですが、
こと海外でのレジデンスとなると、日常生活を通して得られる「気づき」や、
自分の中の常識のスクラップ&ビルドを通して得られる「変化」も挙げられます。
長沢さんは、現地の生活を通して、どんな「変化」を何を得たのでしょうか。
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いい意味でも悪い意味でも「人間らしさ」というものを現地の人たちに感じました。
何かを運んでいると、そこら辺のおじさんが手伝ってくれたり、
みんな好奇心旺盛で中国語の分からない私にどんどん話しかけてくれる。
本当にみんな人なつっこっかったです。
逆に、時には雑な対応をされ、嫌な目にも合いましたが、
感情表現がプラスの方向にもマイナスの方向にも豊かだというのは、
精神的に健康なのかもしれないな、とも思いました。
また、現地で創作活動をしている人たちはすごくタフで、ストイックだな、とも感じました。
クーラーのない暑いアトリエで鉄アレイで鍛えながら、大作を何枚も描いているアーティストがいて、
こりゃ負けちゃうな…とも感じました。
これからは、負けじと私も体を鍛えなくては、と思いました…。
「日常生活」と言っても、1ヶ月半だけの滞在だったので、
もっと長く住めば色々な面が見えてくるのだとは思うのですが、
今回の滞在では、自分が素に戻っていくような感覚を感じていました。
それは開放的な上海の雰囲気のお陰かもしれません。
この感覚は、今後作品作りに活かされていくのだろうと感じています。
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自分が素に戻っていく感覚、、、。
確かに上海の人たちは感情表現が豊かで、
いいものはいい、悪いものは悪いとはっきり意思表示をします。
そうではなく、感情を押し殺すことを暗黙のうちに求められる日本では、
知らず知らずのうちに「社会的な自分」を演じねばならないときも多いものです。
月並みな言い方ですが、上海の「人間くささ」のようなものが
長沢さんの心を解きほぐし、素に戻っていくような感覚を覚えさせたのかもしれません。
上海万博を期に、世界中からたくさんの人たちが集まる上海ですが、
そうした人間くささや、素直な感情表現が平坦になることなく残っているということが
まさに上海らしさであり、上海の魅力なのでしょう。
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今回、短期間でOffice339と共にワークショップを企画し、開催したことは自信に繋がりました。
実は、下描きなしで絵を描くのはすごく苦手で…。それで、前日までちょっと気が重かったのですが、
せっかくだからとにかく楽しもう! と思い、当日は楽しく描くことができました。
イベント自体の準備も時間もあまりなく、
当日になってもイベントの流れもきちんとわからないままでしたが、
結果的に子供たちと一緒に創ったら、予想以上の作品になり、とても満足しています。
チャンスが来たら、怖がらず、大胆に飛び込んで行くこと、
また、自分のやりたいことを明確にしていくことを、今回のレジデンスでは学びました。
そして、やりたい放題させて頂き、
多大な協力をして下さったOffice339に何よりも感謝しています。
アーティストにとって、自分のやりたいことを実現するために支援してもらえるということ、
そのことが一番幸せで、幸せ過ぎて、本当に生きていて良かったなあ…とさえ思いました。
生きている実感って、人の優しさに触れた時に感じるものなのだと、今回感じました。
東京で暮らしていると、時々閉塞感を感じてしまうこともありますが、
でも環境は自分の力で変えられるのではないかと信じています。
もっとタフに、未来を自分の手で切り開いていく意思がより強くなったことが、
一番の変化だと思っています。(以上、長沢)
私は冒頭で「長沢さんにどんな変化があったのか」と言いましたが、
長沢さんから語られたものは、むしろ「回帰」に近いのではないかと思います。
それは、長沢郁美というひとりの人間としての回帰であり、
同時にまた、アーティストとしての回帰でもあったのでしょう。
未来を自分の手で切り開いていこうという意思。
心の奥底に刻まれた強固な意志を、長沢さんは上海で自ら「取り戻した」。
そう言うことはできないでしょうか。
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これまで前後半2回に分けて長沢さんのインタビューをお送りしてきましたが、
いかがでしたでしょうか。
上海万博で、いろいろな職業の日本人が上海を訪れていますが、
アーティストやクリエイターは、まだまだ少ない印象です。
もちろん、アーティストを取り巻く上海の環境は生易しいものではないし、
今回長沢さんが語ってくれたように、
目を覆いたくなるような問題がごろごろと転がっています。
しかし、だからこそ気づけるものがある。
それを価値と思えるのが「アーティスト」ではないかと思うのです。
長沢さんの言葉を借りるとすれば、
「怖がらず、思い切り飛び込んで」みること。
上海は、そんな勇気ある人を、温かく、また強烈に、包み込んでくれるはずです。
(後半・おわり)
09 Sep 2010 上海なうvol.3
前回は、上海で活躍するグラフィックデザイナーの伊瀬幸恵さんに
上海で必要な「伝わらない前提」について話を聞きましたが、
vol.3では、つい最近まで、上海でのアートレジデンスに参加したアーティストに
上海での制作や展覧で「いったい何を得たのか」を聞いてみることにします。
今回、上海のアートマネジメントオフィス「Office339」のレジデンスに参加したのは
東京出身のアーティスト、長沢郁美さん。
長沢さんは、これまで何度か中国で個展を開いたりグループ展に参加してきましたが、
一定期間を現地で過ごし、制作→展示までを行うのは今回が初めてということなので
上海で何を感じ何を得たのかを聞くにはまさに旬のアーティスト!!
まずは、レジデンスでの日々をざっくり振り返ってもらいました。
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1ヶ月半上海に滞在したのですが、制作はもちろんその他の様々なイベントを開催しました。
まず、レジデンス先のOffice339を一夜限りのスナックにし、
私自身がホステスになってお客様を接待するという「スナック339」という企画をやりました。
アートのことだけを難しく考えるのではなくて、
思いつきでふざけた企画もやってみたいと思ってのことだったのです。
結果的にはたくさんの方にお越し頂けて、制作途中の絵を見て頂くことができ、
何よりみなさんと交流することができて、とてもいい機会になりました。
その他にも、個展 “Flutter” を開催したり、大型ショッピングモール889PLAZAでワークショップも行いました。
子供向けのイベントもしたいと思い、ワークショップでは主に子供を対象にしました。
まず始めに、大きなキャンバスに私が黒いペンで会場を訪れた子供たちの顔を描き、
その上から子供たちにクレヨンで色を塗ってもらいました。
私にとって初めてのワークショップでしたが、思っていた以上に子供たちが熱心にやってくれて、
終始子供たちのパワーに圧倒されていました。真剣な子供たちの表情がとても印象に残っています。
その他、偶然出会ったデザイナーの方に声を掛けて頂き、
急遽ファッションショーにモデルとして出演することになったり、
初めての経験ばかりで、レジデンスは本当に充実した日々でした。
スペースの違いは大きかったです。
今回のレジデンスでは、2.5×5mの大作を制作しましたが、
これは日本の私のアトリエでは制作不可能な大きさでした。
また、上海は画材も安く、キャンバスも好きな大きさで注文でき、
発注から到着までが早いのでとても制作しやすい環境だと思います。
ただ、画材の質は日本とは違うので、やや苦戦しました。
その他、制作場所としていたOffice339のあるエリア “威海路696″ は新しいアートエリアになっていて、
アーティストのアトリエや、デザイン事務所、写真スタジオなどがあり、
毎日たくさんの人が見学に訪れていました。
Office339にもたくさんの方が見学に訪れてくれるので、
制作をしながら見学に来た方とお話をしたりできるのも、とてもいい刺激になりました。
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長沢さんの言うように、上海には、この威海路696のほかに、大型のアートエリアがいくつかあります。
そこに行けば何人ものアーティストの制作過程や展示を、何かしら見ることができる。
上海には、アートのアイコンとも言うべき場所が、あちこちに点在しているんです。
しかし、そんな上海ですが、「発表の場」として考えたとき、
日本人の常識が通用しない局面も多々、あったようです。
日本と比べて、全てがスピーディーに動いているので、
そのところでやりにくさとやりやすさの両方を感じました。
やりにくさというのは、色々な決断を瞬時に行わなければならないということ。
また、それに備えて常に準備をしていなければならないということです。
例えば、今回の889PLAZAでのワークショップが正式に決まったのは、開催日の3日前でした。
ワークショップの前日は個展のオープニングがあったので、
その準備もあり、最後の方はもう何が何だかよく分からなかったです。
もっと時間があれば…とも思いましたが、
このスピード感に応えられなければ、チャンスを逃してしまうのだとも感じました。
逆に、瞬発力を備えて臨めば、チャンスは日本よりも多いのではないでしょうか。
また、個展の為の作品を運ぶ際に中国の業者にすごく雑に扱われ、大変悲しい思いもしました。
美術作品は丁寧に扱うものだという考えもまだそんなに浸透していなく、
日本での常識は通用しないのだと痛感しました。
中国で発表することは、まだまだ大変な面もたくさんありますが、
それでもチャンスが多いというのは代え難い魅力だと感じています。
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確かに、私たちは「こんなことは当たり前だろう」という日本での常識を持ち込んでしまうことがあります。
しかし、「そんなことさえ当たり前ではない」ということが、とりわけ上海では起こりえます。
長沢さんは、こんなエピソードを紹介してくれました。
実は中国の業者に、作品を雑に扱われ、作品にダメージができてしまったんです。
その現場に立ち会った時に、業者に対してものすごく憤りを感じ、怒りました。
なかなか怒りと悲しみはおさまらなかったです。
けれど、そこで感じたのは、
中国の業者の担当者は「しまった」とさえ思っていなさそうだということです。
もちろん、全ての業者がそうではなくて、しかも、担当の人によるのですが、
その人はまったく何で怒られているかでさえ、分かっていない様子でした。
その時に、全く常識の違う相手に対して、こちら側の常識で怒っても、どうにもならないと感じました。
つまり、今回のことは、こちら側の常識で動いていた、自分たちのミスなのかもしれない、と。
常識の違いを痛感しましたが、
でもだからこそ今後自分がその中でどう動いていけばいいのか
ということがより明確になってきたと思っています。(以上、長沢)
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作品を大事に扱う、なんてことすらも共有できない。
その事実に、長沢さんは打ちのめされたことでしょう。
しかし、それは単純に「不幸」だと片付けることができるでしょうか。
「自分の常識をこえるもの」と、日本ではそう簡単に会うことはできない。
そう考えることはできないでしょうか。
長沢さんが「糧」にしたものに思いを馳せるとき、
アーティストにとっての上海の魅力が、ぐっと力を持って迫ってくるような気がします。
(前半おわり)
